こんにちは。兵庫県神戸市中央区の歯医者 シニア歯科オーラルケアクリニック新神戸 歯科医師 院長の小松原秀紀です。
港町としての歴史を持ち、美味しい食材や豊かな食文化に恵まれたここ神戸市において、「食」は人生の楽しみの大きな部分を占めています。しかし、歯を失ってしまうと、その楽しみが奪われてしまうだけでなく、全身の健康や精神的な活力にまで影を落としかねません。失った歯を補うための治療法には、入れ歯、ブリッジ、そしてインプラントがありますが、中でも「第二の永久歯」とも呼ばれるインプラント治療は、その機能性の高さから、近年ますます注目を集めています。当院がある新神戸エリアでも、アクティブなシニア世代の方々を中心に、インプラントを選択される患者様が増えてまいりました。
しかし、インプラントは「魔法の治療」ではありません。素晴らしいメリットがある一方で、外科手術を伴うことや、費用面、メンテナンスの重要性など、必ず知っておくべきデメリットやリスクも存在します。これらを両面から正しく理解し、ご自身のライフスタイルや価値観と照らし合わせた上で決断することが、治療後の満足度を高める鍵となります。「周りがやっているから」「勧められたから」という理由だけで決めるのではなく、ご自身が納得して選ぶことが何よりも大切です。今回は、神戸市でインプラント治療を検討されている皆様に向けて、歯科医師の立場から、絶対に押さえておきたいインプラントのメリットとデメリットを、厳選して5つのポイントにまとめ、徹底的に解説していきます。
目次
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メリット①:天然歯のような「噛み心地」と「食の喜び」の復活
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メリット②:残っている「健康な歯」を削らずに守れる唯一の方法
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デメリット①:「外科手術」が必要であるという身体的リスク
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デメリット②:「費用」と「治療期間」がかかるという現実
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デメリット③:天然歯よりも繊細な「メンテナンス」が一生必要
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まとめ
1. メリット①:天然歯のような「噛み心地」と「食の喜び」の復活
インプラント治療の最大のメリットは、何と言っても「噛む力(咀嚼機能)」の劇的な回復です。歯を失った際の従来の治療法である「入れ歯(義歯)」は、歯茎の粘膜の上に乗っかっているだけの状態です。そのため、噛む力は天然の歯の20%〜30%程度にまで落ちてしまうと言われています。これでは、お煎餅や硬いお肉、弾力のあるタコやイカ、繊維質の多い野菜などを噛み切ることが難しく、どうしても柔らかいものばかりを選んで食べる「偏食」になりがちです。また、入れ歯がガタついたり、間に食べ物が挟まって痛かったりすることも、食事のストレスとなります。
一方、インプラントは、顎の骨に「チタン製の人工歯根(フィクスチャー)」を直接埋め込み、骨と強固に結合させます。これを「オッセオインテグレーション」と呼びますが、この結合によって、インプラントは天然の歯とほぼ変わらない、しっかりとした土台を持つことになります。その結果、噛む力は天然歯の80%〜90%、状態によってはそれ以上にまで回復します。硬いものでも、粘り気のあるものでも、遠慮することなく思い切り噛みしめることができるのです。
「噛める」ということは、単に食事が美味しいというだけではありません。よく噛むことで唾液の分泌が促進され、消化を助け、胃腸への負担を減らします。また、噛む刺激が脳に伝わることで脳の血流が増加し、認知症の予防にも繋がると言われています。さらに、ご家族やご友人と同じメニューを囲み、味や食感を共有できる喜びは、精神的な豊かさをもたらし、QOL(生活の質)を大きく向上させます。神戸ビーフのステーキも、明石焼き(玉子焼)も、季節の野菜も、自分の歯と同じ感覚で味わえる。この「食の喜びの復活」こそが、インプラントが選ばれる最大の理由なのです。
2. メリット②:残っている「健康な歯」を削らずに守れる唯一の方法
歯科医師の視点から見て、インプラントの最も医学的に優れたメリットは、「他の歯を犠牲にしない」という点にあります。歯を1本失った場合、これまでの主流な治療法は「ブリッジ」でした。ブリッジは、失った歯の両隣にある健康な歯を削り、そこを土台として橋をかけるように人工の歯を被せる治療法です。固定式で違和感は少ないものの、健康な歯のエナメル質を大きく削らなければならないという、非常に大きな代償を伴います。削られた歯は寿命が縮まり、将来的に虫歯や破折のリスクが高まります。さらに、失った歯が本来負担すべき噛む力を、土台となった2本の歯で支えなければならないため、過剰な負担がかかり、共倒れになってしまうことも少なくありません。
また、「部分入れ歯」の場合は、残っている歯に金属のバネ(クラスプ)を掛けて固定します。歯を削る量はブリッジより少ないですが、バネをかけられた歯には、着脱のたび、そして噛むたびに、揺さぶられるような有害な力がかかり続けます。これは、釘抜きで釘を抜くような力であり、バネをかけられた歯が次々と抜けていってしまう「ドミノ倒し」のような現象を引き起こす原因となります。
それに対し、インプラントは「独立した1本の歯」として機能します。顎の骨に直接自立しているため、隣の歯を削る必要もなければ、バネを掛けて負担を強いる必要もありません。それどころか、インプラントが入ることで噛み合わせのバランスが整い、残っている他の歯にかかる負担を軽減してくれる役割さえ果たします。「残っている自分の歯を、1本でも多く、1日でも長く守りたい」。そう願う方にとって、インプラントは、周囲の歯に手を出さずに欠損を補える、唯一にして最善の治療法と言えるのです。これは、お口全体の健康寿命を延ばす上で、極めて重要な要素となります。
3. デメリット①:「外科手術」が必要であるという身体的リスク
ここからは、デメリットについてもしっかりと目を向けていきましょう。インプラント治療の最大のハードルとなるのが、「外科手術が必要である」という点です。インプラントを埋め込むためには、歯茎を切開し、顎の骨にドリルで穴を開ける手術が不可欠です。抜歯と同程度の手術で済むことも多いですが、やはり体への侵襲(負担)は避けられません。術後には、ある程度の痛みや腫れ、内出血などが生じる可能性があります。
また、手術を行うためには、患者様の「全身の健康状態」が良好であることが条件となります。重度の糖尿病(血糖コントロールが不良な場合)、重篤な心疾患、コントロールされていない高血圧、骨粗鬆症(特にビスフォスフォネート製剤などを服用中の場合)、脳血管疾患の既往がある方などは、手術中のリスクや、術後の治癒不全、感染のリスクが高まるため、治療が制限される、あるいは受けられない場合があります。特に当院のようなシニア歯科では、患者様が何らかの持病をお持ちであることが多いため、内科などの主治医との連携(対診)が絶対に欠かせません。
さらに、顎の骨の中には、神経や血管といった重要な組織が通っています。特に下顎には下歯槽神経という太い神経があり、万が一これを傷つけてしまうと、唇や顎に麻痺が残ってしまうリスクがあります。上顎には上顎洞という空洞があり、骨が薄いとインプラントが突き抜けて感染を起こすリスクもあります。これらのリスクを回避するためには、手術前の「歯科用CT」による三次元的な精密検査と、シミュレーションが不可欠です。手術には、どうしても「絶対」はありません。だからこそ、実績のある歯科医師を選び、安全対策が万全な環境で受けることが重要になります。
4. デメリット②:「費用」と「治療期間」がかかるという現実
インプラント治療は、現実的な問題として「費用」と「時間」がかかります。まず費用についてですが、インプラントは原則として公的医療保険が適用されない「自由診療(自費診療)」となります。検査、手術、材料費(インプラント体や被せ物)、技術料などを含めると、神戸市の相場では1本あたり30万円〜50万円程度が必要となります。これは、ブリッジや入れ歯(保険適用の場合)と比較すると、桁違いに高額です。また、骨が足りない場合に骨を増やす手術(骨造成)を行えば、さらに追加費用がかかります。「医療費控除」を利用することで税金の一部が還付される制度はありますが、それでも一時的な経済的負担は大きなものとなります。
次に治療期間です。インプラントは、手術をしてすぐに噛めるようになるわけではありません(即時荷重という特殊なケースを除く)。埋め込んだインプラント体が、顎の骨と細胞レベルで結合するまでには、一定の待ち時間(治癒期間)が必要です。一般的には、下顎で2〜3ヶ月、上顎で3〜6ヶ月程度かかります。骨造成を行った場合は、さらに期間が延び、半年から1年近くかかることもあります。その間は、仮歯を入れたり、食事に制限ができたりと、多少の不便を強いられることもあります。ブリッジなら数週間、入れ歯なら1ヶ月程度で完成することを考えると、インプラントは「長期戦」を覚悟しなければならない治療です。
入学式や結婚式など、特定のイベントに合わせて歯を入れたいというご希望がある場合は、かなり余裕を持って治療を開始する必要があります。また、経済的な面でも、デンタルローン(分割払い)が利用できるかなど、事前にしっかりと計画を立てておくことが大切です。「高い」「長い」というデメリットと、得られるメリットを天秤にかけ、ご自身にとってその価値があるかどうかを慎重に判断する必要があります。
5. デメリット③:天然歯よりも繊細な「メンテナンス」が一生必要
「インプラントは人工物だから、虫歯にならないし、一生手入れしなくても大丈夫」と誤解されている方がいらっしゃいますが、これは非常に危険な間違いです。確かにインプラント自体は虫歯にはなりませんが、それを支えている骨や歯茎は生身の体です。ケアを怠ると、天然歯の歯周病にあたる「インプラント周囲炎」という病気にかかってしまいます。
インプラントは、天然歯にある「歯根膜(しこんまく)」という組織がありません。歯根膜には、細菌の侵入を防いだり、噛む力を調整したりする防御機能が備わっていますが、インプラントにはそれがないため、一度細菌感染を起こすと、天然歯よりも急速に炎症が広がり、骨が溶かされてしまうのです。自覚症状が少ないまま進行し、気づいた時にはインプラントがグラグラになり、抜け落ちてしまうという最悪のケースも少なくありません。
そのため、インプラント治療を受けた後は、天然歯以上に丁寧な「毎日のセルフケア(歯磨き)」と、歯科医院での定期的な「プロフェッショナルケア(メンテナンス)」が一生涯不可欠となります。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやフロスを駆使して汚れを落とす技術を習得し、3ヶ月〜半年に一度は必ず歯科医院に通い、噛み合わせのチェックや専用器具によるクリーニングを受ける必要があります。これを「面倒だ」と感じる方や、通院が難しい事情がある方には、インプラントは不向きかもしれません。インプラントの寿命は、治療後のメンテナンスにかかっていると言っても過言ではありません。「入れたら終わり」ではなく、「入れてからが始まり」なのです。
まとめ
神戸市でインプラント治療をご検討中の皆様へ、メリットとデメリットを詳しく解説しました。
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メリット:天然歯に近い「噛み心地」を取り戻し、食事や会話を楽しめる。
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メリット:隣の「健康な歯を削らない」ため、お口全体の健康寿命が延びる。
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デメリット:「外科手術」が必要であり、全身状態や解剖学的リスクの評価が必要。
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デメリット:保険外のため「高額」であり、治療完了までに「長い期間」を要する。
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デメリット:インプラント周囲炎を防ぐため、生涯にわたる「厳格なメンテナンス」が必須。
インプラントは、失った歯を取り戻すための素晴らしい技術ですが、全ての方にとってベストな選択とは限りません。メリットがデメリットを上回ると判断できた時に初めて、治療へと踏み出すべきです。 シニア歯科オーラルケアクリニック新神戸では、インプラントの利点だけでなく、リスクや負担についても包み隠さずご説明し、患者様が心から納得して選択できるようサポートいたします。神戸市で、ご自身の歯についてお悩みの方は、ぜひ一度当院のカウンセリングにお越しください。あなたの未来の笑顔のために、最善の道をご提案させていただきます。

