「骨が少ない」とインプラントを諦めないで!骨造成について知っておきたいこと

こんにちは。兵庫県神戸市中央区の歯医者、シニア歯科オーラルケアクリニック新神戸 院長の小松原 秀紀です。

インプラント治療を希望されてご相談に来られた患者様が、過去に他の歯科医院で、「あなたは顎の骨が少ないので、インプラントはできません」と診断され、肩を落としていらっしゃる場面に、私たちは何度も遭遇してきました。

そして、その解決策として「骨を増やす手術(骨造成)が必要かもしれません」と提案されたものの、「インプラント手術だけでも怖いのに、さらに手術が必要なの?」「費用や体への負担は、一体どのくらい大きくなるの?」と、更なる不安を抱えてしまう方も少なくありません。

もし、あなたが今、同じような状況にあるのなら、どうか治療を諦めてしまう前に、このブログを読んでください。現代の歯科医療における「骨造成(骨再生誘導法)」は、かつては不可能だった多くのケースを可能にする、確立された安全な治療法です。今回は、なぜ骨が少なくなるのか、そしてその骨を増やすための代表的な手術方法、それぞれの負担について、詳しく解説していきます。

 

目次

 

  1. なぜ顎の骨は少なくなるの?主な3つの原因
  2. 「骨造成(骨増生)」とは?インプラント治療を可能にする骨の再生医療
  3. ケース別・代表的な骨造成の種類①【上の奥歯編:サイナスリフトとソケットリフト】
  4. ケース別・代表的な骨造成の種類②【骨の高さ・厚みが足りない編:GBR法】
  5. 気になる費用や体への負担について
  6. まとめ:骨造成は、安全なインプラント治療のための「土台作り」

 

1. なぜ顎の骨は少なくなるの?主な3つの原因

 

インプラントを安全に埋め込み、長期間安定して機能させるためには、それを支えるための十分な量(高さ・厚み)と、質の良い顎の骨が不可欠です。頑丈な家を建てる時に、しっかりとした基礎(土台)が必要なのと同じ原理です。しかし、様々な理由で、この大切な骨が不足してしまうことがあります。インプラント治療を検討する上で、まずご自身の骨の状態を知ることが重要ですが、なぜ骨が少なくなってしまうのか、その主な原因を理解しておくことも大切です。

  • 原因①:歯周病の進行 歯を失う原因として最も多いのが歯周病です。歯周病は、歯茎の炎症だけでなく、歯を支えている顎の骨(歯槽骨)そのものを溶かしてしまう病気です。重度の歯周病によって歯が抜けてしまった、あるいは抜歯せざるを得なかった場合、すでに歯を支えていた土台である骨も、広範囲にわたって失われていることがほとんどです。骨が大きく吸収されてしまうと、インプラントを埋め込むための十分な高さや厚みがなくなり、そのままでは治療が困難になります。
  • 原因②:歯を失ってからの時間経過 歯がなくなると、その部分の骨には、噛むことによる適切な刺激が伝わらなくなります。私たちの骨は、適度な負荷がかかることでその形態と密度を維持していますが、刺激がなくなると、骨は「もうこの部分は使われていない」と判断し、まるで使わなくなった筋肉が衰えるように、時間と共に徐々に痩せて(吸収して)いってしまいます。歯を抜いた後、ブリッジや入れ歯を入れていても、歯の根からの直接的な刺激は骨に伝わらないため、残念ながら骨の吸収は進行してしまいます。抜歯後、時間が経過すればするほど、骨は薄く、低くなっていく傾向にあります。
  • 原因③:解剖学的な理由 病気や時間の経過とは別に、元々の骨の形態がインプラントに適していない場合もあります。特に「上の奥歯」の上方には、「上顎洞(じょうがくどう)」と呼ばれる大きな空洞(副鼻腔の一種、サイナスとも呼ばれます)が存在します。この上顎洞の底までの骨の高さが、生まれつき、あるいは加齢によって薄くなっている方は少なくありません。また、上の前歯部の骨も、元々が非常に薄い構造をしているため、抜歯後にインプラントに必要な厚みが不足しやすい部位として知られています。

これらの理由によって、いざインプラント治療を希望された時には、インプラントを支えるための土台となる骨が足りない、という診断が下されることがあるのです。

 

2. 「骨造成(骨増生)」とは?インプラント治療を可能にする骨の再生医療

 

「骨が足りないなら、インプラントは諦めるしかないのか…」そんなことはありません。その問題を解決するために開発され、現在では広く行われているのが、骨造成(骨増生)術、あるいは骨再生誘導法と呼ばれる治療です。 これは、インプラントを埋め込む予定の部位の骨が不足している場合に、ご自身の骨(自家骨:例えば下顎の角などから採取)や、人工の骨補填材(リン酸カルシウムなど、骨の成分に近い材料)、あるいはその両方を用いて、骨の再生を促し、インプラントに必要な骨のボリューム(高さや厚み)を確保するための、外科的な処置の総称です。

「手術」と聞くと、身構えてしまうかもしれませんが、多くの場合、インプラントを埋め込む手術と同時に、あるいはその前段階のステップとして行われる、確立された安全な治療法です。骨造成技術の進歩は目覚ましく、この技術によって、かつては「インプラント治療は適応外です」と診断されていた、多くの患者様が、安全かつ長期的に安定するインプラント治療を受けられるようになっています。家を建てる前の「地盤改良」や「基礎工事」をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。この土台作りをしっかり行うことが、インプラントという高価で精密な構造物を、長く安定して機能させるための鍵となるのです。

 

3. ケース別・代表的な骨造成の種類①【上の奥歯編:サイナスリフトとソケットリフト】

 

特に骨が不足しやすい「上の奥歯」に対して行われる、代表的な骨造成(上顎洞挙上術)を2つご紹介します。上顎洞という空洞の底までの骨の高さがどのくらい残っているかによって、主に2つの方法が使い分けられます。どちらの方法も、上顎洞の底にある「シュナイダー膜」という薄い粘膜を傷つけずに持ち上げ、その下にできたスペースに骨補填材を満たす、という基本原理は同じです。

  • サイナスリフト 上顎洞までの骨の高さが非常に少ない(目安として5mm以下)重度のケースで行われることが多い方法です。歯が生えていた場所の側面(頬側)の歯茎を切開し、骨に小さな窓を開けます。そこから専用の器具を挿入し、上顎洞の底にあるシュナイダー膜を慎重に剥がして持ち上げます。そして、持ち上げた膜の下にできた大きなスペースに、たっぷりと骨補填材を填入します。骨が成熟してインプラントを支えられる強度になるまで、約3~6ヶ月程度の治癒期間を待ってから、インプラントを埋め込む手術を後日行う「二段階法」が一般的です。比較的、身体的な負担は大きくなりますが、広範囲に、そして大量に骨を増やすことができる、非常に有効な術式です。
  • ソケットリフト(クレス-タルアプローチ) 上顎洞までの骨の高さがある程度残っている(目安として5mm以上)比較的軽度なケースに適応される方法です。インプラントを埋め込むために形成した穴(ソケット)から、専用の器具を使って上顎洞の粘膜を優しくコンコンと槌打したり、あるいは水圧などを利用したりして、慎重に押し上げます。そして、できたわずかなスペースに骨補填材を填入し、その上からインプラントを埋め込みます。この方法の最大のメリットは、骨造成とインプラントの埋め込みを同時に(一回の手術で)行えることです。これにより、手術の回数が1回で済むため、患者様の身体的な負担や、治療期間を大幅に短縮できるという大きな利点があります。精神的なストレスも軽減されるでしょう。

 

4. ケース別・代表的な骨造成の種類②【骨の高さ・厚みが足りない編:GBR法】

 

歯周病などで顎の骨の「厚み(幅)」がナイフの刃のように薄くなってしまったり、あるいは垂直的な「高さ」が足りなくなったりした場合に、広く用いられるのが**GBR法(骨再生誘導法:Guided Bone Regeneration)**です。

  • GBR法 骨の厚みや高さが足りない場合に、最も一般的に行われる骨造成術です。骨が不足している部分に、ご自身の骨を削って採取したもの(自家骨)や、人工の骨補填材を盛り付けます。そして、その盛り付けた材料の上を、「メンブレン」と呼ばれる特殊な人工膜(コラーゲン製など、体内で吸収されるタイプと、吸収されないタイプがある)で覆います。このメンブレンは、骨が再生するためのスペースを確保するテントのような役割と、治癒の早い歯茎などの軟組織が骨の再生スペースに入り込んでくるのを防ぐ“バリア”の役割を果たします。これにより、メンブレンの下で、骨を作る細胞だけがゆっくりと増殖し、目的とするボリュームの骨が再生されるのです。不足している骨の量が少なければ、インプラントの埋め込み手術と同時にGBR法を行うことが可能です。骨の不足量が大きい場合は、まずGBR法によって骨の再生を促し、骨が十分に成熟するのを4~6ヶ月程度待ってから、改めてインプラント手術を行う「二段階法」を選択することもあります。GBR法は、様々な骨欠損に対応できる、非常に応用範囲の広い信頼性の高い術式です。

 

5. 気になる費用や体への負担について

 

骨造成術は、インプラント治療を成功させるための重要なステップですが、追加の手術である以上、費用や体への負担についても、事前にしっかりと理解しておく必要があります。

  • 費用について 骨造成術は、インプラント治療本体と同様に、公的医療保険が適用されない自由診療となります。費用は、行う術式(サイナスリフト、ソケットリフト、GBR法など)、骨を造成する範囲の広さ、使用する骨補填材やメンブレンの種類・量によって大きく異なります。一般的な目安としては、通常のインプラント治療費に加えて、おおよそ5万円~30万円程度の追加費用が必要となることが多いです。これは、決して無視できない金額ですが、安全で長期的に安定するインプラント治療を実現するための、いわば「土地造成費用」であり、必要不可欠な投資であるとご理解いただければと思います。もちろん、治療計画の段階で、必要な骨造成術の種類と、それに伴う費用については、明確にご説明いたします。
  • 体への負担(痛みや腫れ)について 骨造成は外科処置ですので、インプラント埋入手術単独の場合よりも、術後の痛みや腫れが強く出る可能性があります。特に、サイナスリフトや、広範囲にわたるGBR法など、処置範囲が大きくなるほど、その傾向は強くなります。腫れのピークは、通常、手術後2~3日目で、その後1~2週間かけて徐々に引いていきます。痛みに関しては、処方される痛み止めをきちんと服用していただくことで、十分にコントロール可能です。多くの患者様が、**「想像していたよりも、痛みや腫れは少なかった」「痛み止めを飲めば、日常生活は問題なく送れた」**とおっしゃいます。もちろん、個人差はありますが、過度に心配する必要はありません。私たちは、手術中の痛みへの配慮はもちろん、術後の腫れや痛みを最小限に抑えるための薬剤の処方や、術後の注意事項(安静にする、患部を冷やす、激しい運動や飲酒を避けるなど)について、丁寧に指導させていただきます。

 

6. まとめ:骨造成は、安全なインプラント治療のための「土台作り」

 

「骨が少ない」という現実は、あなたにとってショックな宣告だったかもしれません。しかし、それは決して、インプラント治療への「終着駅」ではありません。

  1. 歯周病や抜歯後の時間経過で、顎の骨が少なくなるのは、誰にでも起こりうること。
  2. **「骨造成(骨増生)」**は、その不足した骨を再生させ、インプラントを可能にする確立された安全な治療法。
  3. サイナスリフト、ソケットリフト、GBR法など、お口の状態に応じた様々な術式があり、多くの場合、インプラント手術と同時に行うことも可能。
  4. 追加の費用や、身体的な負担はかかるが、それは**安全で長持ちするインプラント治療を行うための、最も重要な「基礎工事」**である。

不十分な骨の状態のまま、無理やり短いインプラントを入れたり、傾けて埋め込んだりすることは、インプラントの早期脱落や、神経麻痺などの重大な合併症に繋がる、非常に危険な行為です。骨造成は、一見、遠回りに見えるかもしれませんが、あなたのインプラントが、10年後、20年後も、しっかりと機能し続け、快適な食生活を支えてくれるための、最も確実で、最も安全な近道なのです。

「自分の場合は、骨造成が必要なのか?」「どの方法が最適なのか?」「費用や期間はどのくらいかかるのか?」…どんな些細な不安や疑問でも、まずは私たち専門家にご相談ください。CTによる精密な検査・診断に基づき、あなたの希望を叶えるための最善の道を、一緒に探していきましょう。