「高血圧だとインプラントはできない」は誤解です!専門医が解説する安全な治療の条件

こんにちは。兵庫県神戸市中央区の歯医者 シニア歯科オーラルケアクリニック新神戸、院長の小松原秀紀です。部分入れ歯をお使いの方から、「しっかり噛めるようになりたい」「見た目を気にせず話したい」といった理由で、インプラント治療をご希望されるケースは年々増えています。しかし同時に、ご自身の持病について、「こんな持病がある私でも、インプラント手術は受けられるのでしょうか?」というご不安の声を伺うことも少なくありません。その中でも特に多いのが、今回ご質問いただいた「高血圧」に関するものです。「高血圧だとインプラントはできない、と聞いたことがあるのですが本当ですか?」というこのご質問、結論から申し上げますと、それは誤解です。正しくは、「コントロールされていない重度の高血圧」の場合は、インプラント治療はできない、あるいは延期すべき、ということになります。今回は、なぜインプラント治療において血圧の管理が重要なのか、そして、高血圧の持病をお持ちの方が安全にインプラント治療を受けるためにはどのような条件や注意点があるのかについて、詳しく、そして分かりやすく解説していきます。

 

目次

 

  1. なぜインプラント治療で血圧の管理が重要なのか?手術に伴うリスクとは
  2. インプラント治療が可能になる「コントロールされた高血圧」の基準
  3. 歯科医院で行う安全対策:血圧測定から手術中のモニタリングまで
  4. 治療の鍵を握る「医科歯科連携」:かかりつけ医との協力体制の重要性
  5. 部分入れ歯からインプラントへ移行する際の身体的・経済的メリットとデメリット
  6. まとめ

 

1. なぜインプラント治療で血圧の管理が重要なのか?手術に伴うリスクとは

 

インプラント治療は、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込むための外科手術を伴います。そのため、全身の状態、特に血圧が安定していることが、手術を安全に行うための大前提となります。では、血圧が高い状態のまま手術を行うと、具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか。主に2つの大きなリスクが挙げられます。 一つ目は、「手術中の出血量が増えるリスク」です。血圧が高いということは、血管の壁に常に強い圧力がかかっている状態です。その状態で歯茎を切開したり、骨を削ったりすると、通常よりも出血しやすくなり、血が止まりにくくなります。出血量が多いと、手術の視野が妨げられてしまい、インプラントを正確な位置に埋め込むことが困難になる可能性があります。また、稀ではありますが、過度の出血は患者様の身体にも大きな負担となります。 二つ目は、「偶発症のリスク」です。手術の際には、痛みを取り除くために局所麻酔薬を使用します。この麻酔薬には、血管を収縮させて出血を抑え、麻酔の効果を高めるために、「エピネフリン」という成分が含まれていることが一般的です。しかし、このエピネフリンには血圧を上昇させる作用もあります。血圧がもともと高い患者様にこれを使用すると、血圧がさらに急上昇し、脳卒中や心筋梗塞といった重篤な全身的偶発症を引き起こす危険性が高まってしまいます。これらのリスクを回避し、患者様の安全を最優先するために、私たちは手術前の血圧の状態を非常に重視しているのです。

 

2. インプラント治療が可能になる「コントロールされた高血圧」の基準

 

「高血圧でもインプラントは可能」と申し上げましたが、それには「血圧が適切にコントロールされていること」という絶対的な条件が付きます。では、「コントロールされている」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。これは、かかりつけの内科医の指導のもと、降圧剤などを定常的に服用することで、血圧が安定した数値に保たれている状態を意味します。日本高血圧学会のガイドラインでは、診察室での血圧が140/90mmHg未満を正常範囲の目安としています。インプラント手術を行う上でも、少なくともこの基準を下回っていることが一つの目安となります。もちろん、当日の体調や緊張によって血圧は変動しますので、手術当日にこの数値より少し高かったからといって、即座に「中止」となるわけではありません。しかし、日常的にこの基準を大幅に超えるような「コントロールされていない高血圧」の方は、まず内科で適切な治療を受け、血圧を安定させることが最優先となります。ご自身で「毎日薬を飲んでいるから大丈夫」と判断するのではなく、かかりつけ医から「現在の状態であれば、歯科の外科処置を受けても問題ないでしょう」という専門的なお墨付きを得ることが、安全な治療への第一歩となるのです。

 

3. 歯科医院で行う安全対策:血圧測定から手術中のモニタリングまで

 

高血圧の持病をお持ちの患者様に対して、インプラント治療を安全に行うために、私たち歯科医院側でも万全の体制を整えています。まず、治療前のカウンセリングや問診で、現在の病状、服用されているお薬の種類(特に血液をサラサラにする薬など)、かかりつけ医の情報を詳しくお伺いします。そして、手術当日には、来院されてからまず血圧を測定します。これは、院内の環境に慣れてリラックスした状態で、普段の血圧に近い数値を把握するためです。もし、緊張などで血圧が一時的に高くなっている場合は、少しお休みいただいてから再測定します。それでも血圧が安全な範囲に下がらない場合は、決して無理はせず、その日の手術を延期するという判断を下します。 手術中も、私たちは常に患者様の全身状態を監視しています。自動血圧計や心電図、パルスオキシメーター(血中酸素飽和度計)などを装着した「生体情報モニター」を用いて、血圧や脈拍、心電図などをリアルタイムでチェックし、万が一の変動にも迅速に対応できる体制を整えています。また、麻酔薬に関しても、前述のエピネフリンの含有量が少ないものや、全く含まれていないものを選択するなど、患者様一人ひとりの状態に合わせた薬剤を使用します。このように、事前の準備から手術中、そして術後に至るまで、何重もの安全対策を講じることで、持病をお持ちの方でも安心してインプラント治療を受けていただけるよう努めています。

 

4. 治療の鍵を握る「医科歯科連携」:かかりつけ医との協力体制の重要性

 

高血圧をはじめとする全身疾患をお持ちの方のインプラント治療を成功させる上で、最も重要な要素と言っても過言ではないのが、「かかりつけ医との連携(医科歯科連携)」です。私たち歯科医師は、お口の専門家ではありますが、高血圧の管理や全身状態の最終的な判断は、やはり患者様の体を普段から診ている内科の先生にお願いするのが一番です。そのため、インプラント治療を計画する段階で、私たちは必ずかかりつけ医の先生に「対診(たいしん)」という形で、診療情報提供書(紹介状)をお送りします。この中で、どのような歯科治療(手術)を計画しているかを具体的にお伝えし、「この患者様の現在の状態で、外科処置を行っても問題ないか」「手術にあたり、注意すべき点はあるか」「服用中の薬で休薬が必要なものはないか」といった点について、専門的な見地からの意見を伺います。かかりつけ医の先生から「血圧は安定しており、手術は問題ない」というお返事をいただいて初めて、私たちは具体的な手術の準備に進むことができます。患者様ご自身にとっても、ご自身の体をよく知る主治医と、これから手術を担当する歯科医師がしっかりと情報を共有し、連携しているという事実は、大きな安心感につながるはずです。

 

5. 部分入れ歯からインプラントへ移行する際の身体的・経済的メリットとデメリット

 

現在お使いの部分入れ歯からインプラントへの移行を検討されるにあたり、それぞれのメリット・デメリットを整理しておきましょう。 インプラント治療

  • 身体的・精神的メリット:最大のメリットは、自分の歯のようにしっかりと噛めることです。顎の骨に直接固定されるため、入れ歯のようなグラつきやズレがなく、硬い食べ物でも気にせず楽しめます。また、バネをかける必要がないため、残っている健康な歯に負担をかけず、見た目も非常に自然です。取り外しの手間がないことも、日々の生活の質を大きく向上させます。
  • 身体的・経済的デメリット:外科手術が必要であり、高血圧などの持病がある場合は全身管理が必須となります。治療期間が数ヶ月単位と比較的長く、保険適用外のため、入れ歯に比べて経済的な負担が大きくなります。 部分入れ歯
  • 身体的・経済的メリット:外科手術が不要なため、全身疾患をお持ちの方でも比較的安全に治療を受けられます。治療期間も短く、保険適用の範囲であれば費用を抑えることができます。
  • 身体的・精神的デメリット:バネをかける歯に負担がかかり、その歯の寿命を縮めてしまう可能性があります。硬いものや粘着性のあるものは食べにくい場合があります。また、装着時の違和感や、会話のしにくさ、見た目の問題などを感じる方もいらっしゃいます。 どちらの治療法が良いかは一概には言えません。しかし、適切な管理のもとでインプラント治療が可能なのであれば、「しっかり噛める喜び」を取り戻すための非常に優れた選択肢であることは間違いありません。

 

まとめ

 

「高血圧だとインプラントはできないのでしょうか?」というご質問に対し、今回は「いいえ、血圧が適切にコントロールされていれば、安全に治療を受けていただくことは十分に可能です」ということを、その理由や条件と共にお話しさせていただきました。大切なのは、ご自身で「持病があるから無理だ」と諦めてしまうのではなく、まずは専門家である私たち歯科医師に相談していただくことです。そして、治療を成功に導くためには、患者様ご自身、かかりつけの内科医、そして私たち歯科医師の三者が、情報を共有し、協力し合う「チーム医療」の体制が不可欠です。部分入れ歯の不便さから解放され、インプラントで再び自分の歯のように噛める生活を取り戻したい、というお気持ちを、私たちは全力でサポートいたします。持病に関するご不安も含め、どんなことでもお気軽にご相談ください。